ふたりだけのアクアリウム


あの山口の告白から、数日経った。


頻繁に事務所に出入りしていた彼はその回数が少し減り、試作品のお菓子などは相変わらず持ってきてくれる。

別に気まずいとか、目を合わせないようにするとか、そういう不自然な態度を取ることもなく至って普通だ。


違うのは、事務所に来る回数が減ったことだけ。


もうすっかり日も暮れて、空は闇に包まれている。
見上げると、やや曇り気味の夜空の隙間から星が見えた。


きっとこの空や星に心を癒されている人もたくさんいるんだろうな。
私はただ見上げて眺めるだけで、特にそういった感情は沸き上がらないのだけど。

恋愛と一緒で、何もかも十人十色、人それぞれなのだ。





ぼんやりしながら歩いていると、どこからか水音が聞こえてきて足を止めた。


地下鉄の駅の近くにある、大きな公園。
公園には噴水があって、水音はそこから来ていると思われる。


噴水のそばまで近づいて、昼間よりも水量を減らしてちょろちょろ流れる水の動きを、目を凝らして見ていた。
昼から比べると水の勢いも全然無いし、流しそうめんを流したらいい感じになりそうってくらいの緩やかな水の流れ。


このささやかな水音が心地いい。

沖田さんちみたい。


━━━━━やっぱり奮発して、水草水槽やってみようかな。


本屋に戻って、初心者向けのアクアリウムの作り方の本を買って帰ろう。
分からないことは沖田さんに聞けばいいんだし。


くるっと体の向きを変えたら、偶然にも地下鉄の駅の入口から出てくる沖田さんを見つけた。
ちょっと急ぎ足で、たぶんこれから会社に戻るところなのだろう。


一瞬迷った後、声をかけた。


「沖田さん」


彼はすぐに立ち止まり、どこから声が聞こえてきたのかとキョロキョロ辺りを見回した。
そして、私の姿に気づくとふんわりとした笑顔になった。


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