ふたりだけのアクアリウム
「お疲れ様です。まさかこんなところで会うとは思わなかった」
「今から帰社ですか?」
「うん。契約もらえたから、必要な書類受け取りに行ってたの」
ゴソゴソと鞄の中身を開けて、契約書諸々が入っているらしい大きな封筒を見せてニッコリ笑う。
あ、また契約取れたんだ。最近好調だな。
知らず知らずのうちに彼の営業成績を毎日チェックするようになってしまったのは、自分でも何故なのかよく分からない。
彼の持っている封筒に書かれた社名を見て、私は驚いて思わず「えっ」と声を上げてしまった。
小売店とかじゃなく、かなりの有名な企業だ。
「法人で契約取れたんですか!?」
「そうなの。ビックリでしょ。売り込みに行った病院でたまたま手を貸したおじいちゃんが、この会社の名誉会長さんだったみたいで。それでまさかの契約に繋がるっていう」
「な、なんていうか……」
「ん?」
「沖田さんらしいですね」
「え?そう?」
本人はキョトンとしていたけど、なんだか容易に想像出来てしまう。足腰の弱ったご老人をいたわって、優しく声をかける彼の姿を。
「係長もこれなら文句は言えないですね」
「……それは微妙なところだけど」
意気揚々と賛同してくれると思ったのに、沖田さんは答えを濁して困ったように笑うのだった。
よく会社で見る笑い方。
前に素敵だと思った笑い方じゃない。
綱本係長と何かあるのかな。
「佐伯さん、この後は時間ある?」
不意にそう尋ねられて、即座に沖田さんの表情を確認する。
彼はただ真っ直ぐに私を見ているだけだった。