イジワル御曹司のギャップに参ってます!
第九章 それでも私は諦めない
***


謝罪行脚から二十五日目。
この日は朝から雨がしとしとと降り続いていて、欝々とした嫌な空をしていた。
本社ビル一階のロビーで流星からお詫び用の手土産を渡されて、これから単独で『ジュエルコスメ』へ向かおうというところ。


「ねぇ、流星。このお詫びの品も、秘書課の子から聞き出した社長の好物か何かなんでしょう?」

「ええ。もちろん」

「好物の他に、何か社長の情報って聞いてないの?」

「何か……っていうと?」

「なんでもいい! 趣味でも、特技でも、好きな芸能人でも、家族構成でも!」

「一体、そんなもの、何に使うの?」

ブツブツと漏らしながら、流星はスーツの内ポケットから手帳を取り出して、ペラペラとめくる。

「えー……新藤昭三。六十五歳。家族構成は十五歳下の妻と二十代の娘が二人。
家族とは仲が良く、年に一度は必ず海外へ家族旅行に出かけるのが通例となっている。
趣味はゴルフで、毎週のようにゴルフ場を回っていたが、去年腰を痛めてからは自粛。
それ以来、体重が増加傾向にあり、持病の高血圧が悪化しているとか」

「高血圧ね……塩分の多い高級食材ばっかり食べているからじゃない?」

「野菜や果物が嫌いという食生活も、災いしてるんだろうね」

「へぇ……」

私は顎に手を当てて、にんまりと笑みを浮かべた。
流星では思いつかないような、新藤社長をあっといわせる方法を思いついてしまった。

そんな私を見て、察しの良い流星は何か感づいたみたいだ。顔をしかめる。
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