イジワル御曹司のギャップに参ってます!
彼の論説に私は奥歯をぎりっと噛みしめる。
この部屋が暗がりでよかった。
私のこめかみがぴくぴくいってるのを、他の社員に知られなくて済む。

『安定したクオリティ』だ? 『弊社の手間が最小限』だ? 『リスク回避』だ?

彼はいつだってそうだ。
冒険心のかけらもない、危険因子は徹底的に排除、楽な方へ、楽な方へと進もうとする。

やはり彼の頭の中は機械になっているのだ。
インストールされているテンプレートに従って、お決まりの仕事を淡々とこなす。
深く考えようともせず、手順書に書いてあることをそのまんま形にする。

超安定志向の機械人間。きっと保身ばかり考えているのだろう。

リスクを取らず何を得れるというのだ。
一歩踏み出して未知の領域を開拓しなければ、新しいものは何も創り出せないというのに。

面倒くさがりのお役所仕事め。

私は正面に座る小野田部長をちらりと見やった。
小野田部長は腕を組み、一心にあのいけ好かない冷徹男を眺めている。
そして――頷いた。
小野田部長の、脈ありサイン。


――うぅぅ、くそぅ……
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