『ココロ彩る恋』を貴方と……
オドオドしなくてもいいことだけど、見て欲しくない場面を目にしているから怖い。


「ひょ…兵藤さん……」


声の届く範囲から呼んでも、彼はちっとも顔を上げない。

睨む様な眼差しを作品に送り続けながら、最終チェックでもしているかのようだ。


「兵藤さん……兵藤さん?」


手先を振りながら呼んでも知らん顔をされる。芸術家っていうのは、自分の作品にしか興味がないのか。


(…もうっ!)


こっちは黙って帰らない方がいいと思い、わざわざ断りを言いに来ているのに、こんな知らん顔が続くと嫌になる。


思いきり彼の側に近付き、横顔を覗き込んだ。

兵藤さんの視線は、心も含めて紙の上に注がれている。



(……兵藤さん)


声をかけるのも躊躇われ、黙って視界の中に顔を映すようにしてみた。

視点も変わらない彼の様子に息を吐き、(やっぱり駄目か…)と諦めかけた。



「……満仲さん……何をしてる?」


急に口が動いてそう言った。気のせいかと思い、改めて彼の顔を見つめる。


「何をしてるんだ?」


間違いなく兵藤さんが喋った。しかも、近距離で私だと認識している。


「え…あの…視界に入ろうとしてます……」


もう十分に入っているけど、そう答えた。奇跡でも起きているのだろうかと、頬を抓りたくなった。


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