『ココロ彩る恋』を貴方と……
恐る恐る口を近づけ、人肌に冷めているものをくわえる。 
入れたら直ぐに上顎で押し潰れ、つるんと喉を越していった。


ゴクン…と唾液を呑み込むのに近い感覚で、胃の方へ下りていく。到達した辺りが温もり、なんとも言えない安心感が広がった。

口を開けると出汁の香りが鼻の奥に抜ける。その匂いを嗅ぎながら、急に忘れていたことを思い出した。


(これ……お爺ちゃんが一番最初に作ってくれたもの……)


奇しくも同じ卵液の固まりを見て愕然とした。

幼い頃、痩せ細っている私に消化が良くて栄養価の高い物を食べさせようとしてくれた祖父。

いろいろと好きな物は何かと聞いてくれた後、これを作ってくれたんだーー。



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『……好きな物とかない』


5歳の私には、『食べ物』に対する欲が薄れていた。

目にする食べ物はどれも、お菓子かパンかカップ麺程度だった。


祖父の顔は悲しそうだった。涙を堪える様に笑い、『美味しい物をこしらえてやろうね』と言った。


(美味しい物?)


『美味しい』という感覚すらも失っていた。

お腹を満たされば何でもいいという生き方を、何年もしていたせいだ。


暫く待たされた後で、出来上がった物を目の前に出されて戸惑った。

直ぐにでも手をつけたい気持ちがある反面、食べれば悪い事が起きそうにも思えた。


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