『ココロ彩る恋』を貴方と……
「は…はい…」


返事を確かめるように頷いた彼が、背中を向けて再び片付けを始める。その後ろ姿にもう一度頭を下げ、ぼんやりしながら作業室を後にする。


脱いだスリッパを履きつつ、キッチンにある物とは何だろうかと考えた。

兵藤さんが私のことを思って作ってくれた物?そんなことがあり得るんだろうか…と、半ば信じ難い気持ちも生まれた。


ぼうっとしたまま足を動かしてキッチンへ向かう。

中に入るとコンロの上には鍋が一つだけ置かれてあり、他の道具類は全て乾燥機の中で乾かされていた。


「…これ?」


ステンレス製の両手鍋と向かい合い、右手で取っ手を持ち、左手で蓋を開けた。

閉じ込められていた湯気が開けたと同時に拡がっていき、白い煙が透明に変わったのを機に、器が一つ視界の中に飛び込んできた。


(これって……)


プリンにも似た色合いの卵液が固まっている。
滑らかな表面を見る限り、いかにも美味しそうな仕上がりだけど。



「茶碗蒸し…」


一瞬何かの記憶が脳裏を掠めた。

思い出せずに取り出し、程よく冷めた器を手にする。

じわっと手の平が温もる。それが身体中に広がって胸がワクワクしてきた。

唾液が口の中に溢れ出すのを抑えながら食器棚の引き出しを開き、中からスプーンを取り出す。


「い…いただきます」


手を合わせて掬った。

プルプルと震える卵液が、朝食べたプリンの様にも見える。


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