『ココロ彩る恋』を貴方と……


(そんなことができる訳ないよ……社会常識に反する……)


今まで良くしてもらったのに恩を仇で返すようなことをしておいて、詫びも入れずに逃げ出すなんてできない。

誠心誠意謝って、それから辞めさせて貰わないとーーー。


(辞めさせて貰う前にクビだよね……)


お婆ちゃんの言葉が耳についていた。お前はクビだと言われた時点で、間違いない…と思った。

振り返れば振り返るほど、愚かな自分が恨めしくなる。

北風が吹いている中を歩くと、胸までが迫ってくる……。


(どこへ向かって歩くの……何も持たずに出てきてしまったのに……)


今更荷物だけを取りに戻る?

もしかしたらお婆ちゃんが警察を呼んでいるかもしれないのに、話を聞かれたらどうする。


(私……捕まえられる?捕まえられたら罪になるの……?)


悪い方にしか考えられなくて、地面を見て歩き続けた。


行く当てもなかった。

誰にも気づかれずに、このまま遠くへ行ってしまいたいーーー。





「…満仲さんっ!」


大きな声で呼ばれ、ギクリ!と背筋が伸びる。

見開いた目を上げてみたら、数メートル先に綺麗な女の人が立っていた。



「……河井さん…」


兵藤さんの個展を仕切る広報部長さんだ。


「何してるの!?そんな薄い格好で!」


慌てて駆け寄り、自分の巻いているショールを外して身体を包み込む。


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