『ココロ彩る恋』を貴方と……
「アキラ君…」


私が呼ぶのを聞いて、彼が唇に指を押し付けてくる。


「その呼び方をしないで欲しい。紫音にそれをされるとまた間違えそうになる」


話し方が何処か彼女に似ていると言われた。
痩せて体の線が細いところも、何となく似ているから間違った…と告った。


私を好きだと言った彼は、それでもやはりまだ彼女を胸に抱いている。
重苦しい過去の記憶は辛過ぎて、そう簡単には消えては失くならないんだ。


何も言い返せずにコーヒーを飲み込んだ。
ミルクを2個も入れた甘い飲み物は、ゆっくりと喉を通り越していく。



「…怒った?」


彼の言葉に振り返る。
申し訳なさそうにする彼の目を見るのは何度目だろう。


「いいえ」


口元に笑みを浮かべる。
彼の中にも私の中にも、特別な人への思いがあるのは同じ。

それを簡単には忘れて欲しくない。
お互いに語り合って、自分の一部にしていきたい。


「良かった…」


ホッと笑う彼の顔が好きだと思った。
風邪の熱にうなされてた時に見たものと同じ、柔らかくて優しい顔をしている。



(私は……幸せだな……)


本当に、やっと心からそう思える人に出会った。
コーヒーを口に含みながら、ことん…と胸に凭れる。


彼の腕が体に巻き付いてくる。
すっぽりと後ろから抱き竦められると、あの酔っ払った日のことを思い出してしまう。


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