『ココロ彩る恋』を貴方と……
頭を下げ、部屋を出ようと振り返った。
レバーに手をかけるつもりで伸ばした瞬間目の前で下がり、外から兵藤さんが入ってこようとした。


「あ…ごめん」

「いえ…」


慌てて前を空ける。

彼はドアを閉めて中へ入り、私の横に立ってから前を向いた。


「ハーイ!昂さん、元気?」


ソプラノの声の主は、明るい口調でそう言って笑った。


「元気だよ。お陰様でね」


兵藤さんは呆れ気味に彼女の方へと進む。


「次の個展の打ち合わせに来たの。新作は幾つかできましたか?」


向かい側の椅子に座ろうとしている彼に問いかける。兵藤さんは何も言わず、お尻を椅子に着地させた。


「満仲さん、濃いめのコーヒー淹れてきてくれる?」


急に振り向かれて驚いた。


「は…はい」


頭を下げつつ、レバーを下げてドアを開ける。


「あのね…」


話を続けようとする人の声を聞かないようにしてドアを閉めた。



「はぁ…」


パタン…とドアの閉まる音がした後の二人は、どんな会話をするんだろうか。


「広報部長ってわりには親しそうだったよね」


兵藤さんを下の名前で呼んでいた。

やっぱりあの人が、「さやか」さんなんだと思うと、急に気分が重くなった。


「いつでも来い!とか思ってたけど、やっぱりこれは凹む〜〜」


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