ラティアの月光宝花
「小賢しいイルテス神の使者よ。私を怒らすな」

「ああああっ!」

言うや否やディーアのあげた片手から、強い風が巻き起こり使者の身体をつつんだ。

これは《風の炎》といい、狙った獲物を包み込むと激しく吹き荒れ灼熱で焼き尽くす、ディーアの得意とする術である。

「……この所業、イルテス様にご報告申し上げる!覚悟されるがよい!」

ふん。勝手にするがよいわ。

ディーアは使者が消えた空中から視線をそらすと、アイリス・ラティアが見上げる自らの石像へと身体を滑り込ませた。


****

そして現在。

「お父様……!」

神殿に安置されたラティア皇帝ロー・ラティアの棺の前に跪くと、セシーリアは肩を震わせて泣いた。

左隣にはマルケルスの父であるユリウス・ハーシアの棺が置かれ、右隣にはレイゲン・ドゥレイヴの棺がある。

「ごめんなさい、レイゲン……!」

レイゲンは、息子オリビエと引き換えに解放されたものの、結局その数時間後に息を引き取ってしまったのだった。

『セシーリア様、突然の別れをお許しください。ラティアを……頼みましたぞ』

苦しい息の下からレイゲン・ドゥレイヴはセシーリアの手を握りしめてこう言うと、運ばれたドゥレイヴ家の自室で絶命した。

オリビエに良く似たレイゲンの瞳から輝きが失われていく様を思い出し、セシーリアは震える声で呟いた。

「お父様、レイゲン、ユリウス……。私、怖い。このラティアを守れる自信がないの。あまりにも突然で、何の心構えも出来ていないの」
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