ラティアの月光宝花
そのイルテスの使者がアイリス・ラティアにピタリとついてまわっている。

ディーアはイルテスの使者に向かってその美しい唇を開いた。

「イルテス神の使者よ。私はアイリス・ラティアと話がある。魂を狩り出すのは後にしろ」

「それは出来ませぬ。寿命が尽きたなら速やかに魂を出さねばならぬ決まり」

イルテスの使者は半透明の身体を空に揺らしながらこう答えた。

……融通の利かぬところはイルテス譲りか。

「所詮お前達はイルテス神の使者にすぎぬ。私と肩を並べられる身分ではない。慎め」

侮蔑の表情で見下ろすディーアにイルテスの使者は浅く笑った。

「これはこれは御気分を悪くめされたか。しかしまさに武神。その無骨な物言いは女神として雅さの欠片もない」

ぞんざいな眼差しで、イルテスの使者がディーアを見上げた。

元々、ディーアとイルテスは馬が合わない。

イルテスは争いを嫌い、軍神のディーアを野蛮な存在だと毛嫌いしていた。

人間が戦争を始めれば魂を抜き出すという仕事が増え、それをディーアのせいだと思っているのだ。

一方ディーアはイルテスを怠け者で意気地がなく、僅かな知識をひけらかす鼻持ちならない神だと軽蔑していた。

口が達者で周囲のものを言いくるめ、仕事は部下に任せきりなイルテスは、ディーアにとって癇に障る相手なのだ。

そんな神のたかが使者に口答えなどされるいわれはない。

ディーアはゆっくりと息を吸うと、一瞬で使者の前に降り立ち、真正面からその眼を見据えた。
< 122 / 196 >

この作品をシェア

pagetop