タタリアン
 翔太はケヤキの前にパトカーを
止めさせ降りた。
 するとそれまで晴れていた空
に雲が不気味にわき起こり、辺り
は一瞬にして暗くなって、やがて
雨が降り出した。
 徐々に霧が立ち込める。
 しばらくして樹木医の佐吉が5
人の作業員を引き連れてやって来
た。
「生きとったか!」
 佐吉が翔太に声をかけた。
「ああ、殺されかけたけどね」
「そうか。大丈夫なのか?」
「へへ。ボロボロだよ」
 雨と霧の中にそびえ立ち、ます
ます不気味になったケヤキ。
 翔太は真剣な目つきに変わり、
佐吉に言った。
「やれますか?」
「そのために来た」
「頼みます」
「よっしゃ。あんたは帰っとれ」
「いや、立ち会います。僕には責
任があるから」
「そうか。そんじゃ、邪魔になら
んように下がっとり」
 タタリがあると言われ、けが人
が出ているこの樹に普通の伐採方
法ではリスクが高い。
 佐吉が合図すると5人の作業員
がケヤキの周りに立ち、根元の土
を掘り返し始めた。

 いっそう強く降り出す雨。
 体の痛みをこらえて見守る翔
太。その横に佐吉がいた。
 二人とも仁王立ちになりタタリ
をはね返す気迫がみなぎってい
た。
 ケヤキの大蛇のような根が徐々
にあらわになっていった。
「掘り出すんですか?」
 翔太がたまらず佐吉に聞いた。
「いや、切るよ。じゃが弱らせて
からじゃないと無理じゃ」
 突然、パッタッと雨がやむ。
 辺りを警戒する佐吉。
 翔太も霧の向こうに目を凝ら
す。
 霧の中から姿を現した謎のレッ
カー車。まだ黒焦げの自動車を牽
引していた。
 パトカーから降りていた警察官
が銃をかまえた。
 停車していた謎のレッカー車
が、ゆっくりと動きだし側の空い
ていた駐車場を利用して方向転換
し、翔太達に背を向け、霧に消え
て行こうとしていた。
 警察官が無線で応援を呼び追跡
しようとするが、翔太は制止し
た。
「何じゃ、あの車は?」
 佐吉が翔太に聞いた。
「なんでもないですよ。ここが通
れないからUターンしたんで
しょ」
「そうか」
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