甘い恋じゃなかった。




その時、私は気付いた。


桐原さんの手に持たれた、“カフェ ミルフィーユ”と書かれた箱の存在に。



「桐原さん、その箱なんですか!?」


「え?…あぁ。今日試作で作ったモンブラン…」


「モンブラン!?」



モンブランといえば、私の大好物じゃないか!
まぁ、ケーキは何でも大好物なんだけどさ!



目をギンギンに輝かせて身を乗り出した私に、桐原さんが少し身を引いた。



「お前…今肉食獣みたいな目してるぞ」


「桐原さん!一口でいいんで食べさせてくれませんか!?」



桐原さんが作ったモンブランなんて食べたいに決まってる。そりゃ肉食獣にもなるでしょう。



「お前、寝なくていいのかよ。明日も仕事だろうが」


「眠れません!」


「…こんな時間にケーキなんて太るぞ」


「大丈夫です!ケーキは別腹なんで!」


「それ意味違うと思うぞ」



呆れたため息をついた桐原さんが、ため息混じりに言った。



「…別に。一口と言わず一つ食べれば」


「えっ!?いいんですか!?」


「二つあるし」


「えぇ!?」




それは、それはまさかとは思うが、もしかして…




「一つは元々私のために持って帰っ「いらねーんなら俺が二つ食う」



「食います食います!食うに決まってるじゃないですか!?」



ふぅ、危ない危ない。



私は本当に二つ食われてしまう前に、桐原さんの手から箱を半ば強引に受け取った。





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