甘い恋じゃなかった。




「…アホだな、お前」



そう言って、桐原さんが私の肩に顔を埋めた。



「桐原さんはケーキバカですけどね」


「それはお前だろ」



私の肩元でくぐもった声を出す桐原さんが、なんだかいつもより弱くて幼くて小さく見えた。

それがなんだか愛おしくて、私はよしよしとその後頭部を撫でる。


サラサラとした触り心地を堪能していると、不意にその手が掴まれた。そのまま肩を押され、あっという間にラグの上に押し倒される。

真上から私を見下ろす瞳が、不機嫌そうに歪められていた。



「ガキ扱いすんな」

「え?いやそんなつもりは…ひゃっ」



ペロリと首筋に濡れた感触。



え、今首筋舐め、舐めっ…!?!?



目を白黒させる私に、今度はとても満足気な彼。




「形勢逆転」


「は、何言ってっ…ん、」




ギラリと彼の瞳に熱が宿った、と思ったら深く唇を塞がれていた。


深く、どこまでも深く、まるで全てを奪い取るような、キス。



溺れるように、浮かされるように、その夜は過ぎていった。




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