甘い恋じゃなかった。
「え、いやでも、今桐原さんが早く入れって…」
「うるさい」
「はい?」
理不尽!!
桐原さんの腕の力が強まる。
何これ。何これ何これ。ドクンドクンと聞こえる心臓の音は私のものか、桐原さんのものか、それとも2人のものなのか。
暫くして、桐原さんがそ、と私の肩を押し体が離された。
至近距離で熱っぽい桐原さんの瞳が私を射抜く。
人が一生のうちに刻むことが出来る心拍数は決まっているというけれど。
それが本当なら私今、軽く五年くらい寿命を縮めている気がする。
そっと目を閉じる。
さっきまで寒かったはずなのに、今は信じられないくらい顔が熱い。
桐原さんの顔が近づいてくる気配がして、
次の瞬間、おでこに走ったピシッという衝撃。
…は?おでこ?ピシッ?
「あのー…今?」
「悪い。すごい面白い顔してたからつい」
全く悪いと思っていそうもない声色で彼が言う。
なんと彼は今、キスを待つ愛しい彼女にデコピンをかましたらしい。
なんと…、なんと
「鬼畜な!!」
「うるせー騒ぐな」
「騒ぎますよ!!今すっごいいい雰囲気だったのにデコピンて!!何ですか!?デコピンて!!」
久しぶりにされたし言いましたよ!デコピンて!!!