甘い恋じゃなかった。




「じゃぁな」


「で、帰るんですか!?なんなんですか!?私の五年分の寿命をっ…」



怒り狂う私の唇にふと落とされたキス一つ。


不意の出来事すぎて、キスをされたと気付くのが遅れた。



急に静かになった私を見て、桐原さんがフッと笑う。



「やっぱ面白いなお前」


「う…うるさいです!」


「じゃぁな、風邪ひくなよ」



そして緩くなっていた私のマフラーをキュッと軽くしめると、優しい笑みを残して帰っていった。



「…くそ…こんなことで私の機嫌が直るとでも…!」



まぁ直ったけど。完全に直ったけど。
最後の優しい微笑みはなんなの!?もう…!



「…ずるい」




いつまでたっても、私は桐原さんに敵わない。



角を曲がった桐原さんの背中が見えなくなるまで見送って、



「…あぁ!!」



ふと重大な事実に気づく。


今日はお姉ちゃんのこと、桐原さんと話そうと思ってミルフィーユに行ったのに。クリスマスケーキの話に浮かれて完全に忘れてた…!


マンションを見上げる。



はぁ、と吐き出したため息は白くなって、あっという間に溶けて消えた。




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