甘い恋じゃなかった。
「…へ、変なサンタさんじゃないよ~、普通のサンタさんだよ~!」
普通のサンタさんって何!と内心自分にツッコミつつ慌てて笑顔を作る。が、そんな私を真顔で見つめ続ける子供。お母さんが「す、すみません!」慌てて謝ってきた。
「いえいえ!
ほら!サンタクロースから君にケーキのプレゼントだよ~!」
そしてケーキの試食を差し出すが、相変わらず子供はじっと私を見つめ続けている。よっぽど胡散臭いんだろうか…。気を遣ったお母さんが、「わ~ありがとうサンタさ~ん!」とケーキを受け取ってくれた。
母親からケーキを受け取った子供が、恐る恐る、といった感じでそれを口に運ぶ。一口、二口、噛み締めて。パァッと笑顔になった。
「おいしー…!」
「でしょでしょ!?特にね、このチョコムースのところが濃厚でこのピスタチオの生地とのバランスが…!」
って5歳の子供相手に何を熱く語ってるんだ私は!
ゴホン、と咳払いをして「ありがとう」と微笑んだ。
「本当に美味しいですね…!これ中で食べられるの?」
そんな私にドン引きすることもなく、お母さんがそんなことを言ってくれる。
「あ、はい!中にイートインスペースがございますので…!」
「じゃぁ寄ってこうかな。ね、タカちゃん?」
「うん!ふつうのサンタさん、ばいばーい!」
よし、変なサンタさんから普通のサンタさんに昇格!
内心ガッツポーズしながら、私は笑顔で手を振った。