甘い恋じゃなかった。
それから暫く歩いて目的地に着いた。小さく、レトロな外観の『カフェ・ミルフィーユ』。
手作りケーキと紅茶が売りのカフェだ。
「ここです!さ、入りましょう!」
私はさっそく入ろうとしたが、桐原さんは不審そうにジロジロと店の外観を眺め回したまま、動こうとしない。
「桐原さん?」
「どこのパティスリーに行くのかと思ったら…こんなちっこいカフェかよ。帰る」
「ちょっ何でですか!!」
「こんな所のケーキがうまいわけない」
「いいから一回食べてみてくださいってば!」
帰ろうとする桐原さんの腕を無理矢理引っ張ってドアを開けた。カランコロンと可愛らしく鳴る鈴の音と、それには不釣り合いな「っしゃいませ~!」というラーメン屋ばりに威勢のいい声が出迎えてくれる。
「あれっ明里ちゃん!来てくれたんだ~!」
私に気付いた店長が、カウンターの中から出てきてくれた。
「うん、店長のケーキが食べたくてさ」
「それは嬉しいこと言ってくれるね!それで…」
店長がチラ、と私の隣を見た。桐原さんは私に腕を取られたまま、不躾に店内を見渡している。
「この男前は彼氏?」
彼氏!?
私はつかんでいた腕を慌てて離した。
「いや違…」
「あっ大変!そろそろたこ焼きひっくり返さないと!適当に空いてる所座っていいよ!」
と、店長は私の言葉を最後まで聞かずカウンターの中に戻ってしまったので、私と桐原さんはとりあえず、カウンターに並んで腰掛けた。