何度でもあなたをつかまえる
con forza

con forza ~ 力強く熱烈に
(コン フォルツァ)

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あと数時間でカーニヴァルが始まる。

普段はおごそかな街が、賑やかに浮かれ騒ぐ。


浮ついた周囲とは対照的に、橘かほりは不安と不満で沈んでいた。

ケルンに来て2度めの秋……。



「去年は、めっちゃ楽しそうやったのに。どうしたん?ヴァイナハツコンツェルトの心配してるんやったら、早すぎひんけ?」

片言のドイツ語とあまりうまくない英語で武装してるかほりには、例え下品な方言でも日本語で話してくれる武井空の存在がありがたい。

もっとも、空(そら)は自分の言葉が方言だとはまったく認識していない。


……つくづく、関西人は自己中だ……。


かほりよりもドイツ語が堪能な空は、日本のカタカナ表記語をいちいちドイツ語で話す。

いつも、かほりは、敢えて和製英語に変換して返事する。


……そんなかほりの頑なさを面白がって、空もまた、敢えてドイツ語を交えて話す。



「クリスマスコンサートのお稽古は順調ですから、ご心配なく。」

かほりは、つんとあごを上げてそう言った。

そして、再びため息をつく。



空は、苦笑してかほりの前にやってきた。

決してかほりは不機嫌なわけではないことは、わかっている。

1年以上一緒に生活していれば、取り繕ったかほりの感情も本音も、むしろ子供っぽくてかわいい……と、空は感じていた。



「ほな、何でため息つくん?カルナヴァルやで?飲みに行こうな。かほり、ケルシュ、好きやろ?」

「……けっこうよ。騒ぐ気分じゃないの。クルーゲ先生のレッスンの練習しなきゃ。そらくん、他のお友達と行ってらして?」

強がりだけではない。

はるばる日本から留学してまで師事したかった偉大な音楽家は、講義を助手に託して自分は演奏旅行にでてしまうことが多い。


今年のクリスマスコンサートの本番にいたっては、何と、日本の東京に招聘されているらしい。


いっそクルーゲ先生について日本に帰りたいとも思ったが。やはりケルンの歴史ある教会でバッハを弾かせてもらえるチャンスは逃したくない。
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