何度でもあなたをつかまえる
ましてや、クリスマスは特別だ。

日本とは違う。

世界遺産の大聖堂とまではいかないが、歴史ある美しい教会のクリスマスミサに自分の弾くパイプオルガンが色を添えるのだ。

キリスト教徒でなくとも、光栄だし、今から緊張もするし、気合いも入るというものだ。


確実にレッスンを受けられる貴重な時間を有効に使うために、かほりには完璧な予習と練習が必要だった。



いつも真面目なかほりに、空は肩をすくめて、拍手をした。

「さすが優等生!……でもヘル・クルーゲのレクチオン、確か来週、休講だったよ。」

「え……。」

かほりは絶句し、がっくりと脱力した。



……また……休講……。

ひどい……。


何のために、言葉も通じない国で、がんばってるのだろう。

恋人とも逢えず、氏素性もよくわからないヒトたちとWG(シェアハウス)してまで……。


「なあ、カルナヴァル。行こうや。エルフエルフぐらい練習休んだらいいやん。音楽は、楽しむものやで。」


なおも誘う空に、かほりはキッパリと断った。


「行きません!アンナを誘ってください。」

「アンナ?ヴァイナハツマンの格好でとっくに出て行ったで。」

「……クリストキントじゃなくて?」


ドイツでは、プレゼントを持ってきてくれる赤と白の衣装の白ひげのおじいさん、いわゆるサンタクロースをヴァイナハツマンと呼ぶ。

それとは別に、クリストキントという天使もプレゼントを持ってきてくれるのだが……空とは違って、アンナは正真正銘の女性だ。

仮装するなら美しい天使のほうがふさわしい。



「ただの仮装ちゃうで。ケルンのカルナヴァルやで。そりゃ、赤やろ。……アンナはケルン語できるから。今日はあちこちで歌いまくるんちゃう?」


……なるほど。


今日のケルンは朝から公共交通機関の中でさえ、さまざまな仮装を楽しむ市民で溢れているが、伝統的なケルンの仮装は赤と白。

ケルンカラーを身にまとい、ケルシュを何杯も飲み干し、ケルン語の歌を合唱する。

エルフエルフと呼ばれる11月11日は、11時11分のカーニヴァル開始を待つことなく、朝から既に出来上がってるご機嫌な人達もいっぱいいる。


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