溶ける部屋
疑心暗鬼
あたしたちはいつもの部屋に集まり、みんな無言でうつむいていた。


衝撃的なトシの死を見て、さっきから何度も吐き気が込み上げてはトイレに駆け込んでいる。


伶香は時々しゃくり上げるようにして泣き、郁美は足を抱えて震えていた。


「あの部屋のせいなのか」


弘明が呟くように言うと、伶香が「やめて!!」と、悲鳴に近い声を上げて両耳を塞いだ。


あたしも、伶香と同じ気持ちだった。


あの部屋に入った事でトシの体はドロドロに溶けて死んだなんて、考えたくもなかった。


「例えばさ……」


郁美が大きく息を吸い込んでそう言った。


「誰かがトシをあんなふうにしてから、あの部屋に運んだとかさ……」


「誰かって、誰よ」


あたしは思わず郁美を睨み付けてそう聞いた。


郁美の言っていることはこの中に犯人がいるという事だ。


「わからないけど、もしかしたらあんな風にあたし達を殺すために、ここに集めたのかもしれないじゃん!」


「そんなワケないでしょ!?」


あたしが郁美に言い返す。


ここへ来てから、間違いなくあたしたちの間には亀裂ができていた。


深い深い、元にもどることが不可能な亀裂。


「落ち着け2人とも。俺たちが寝ている間に犯人である第三者が入り込んでいたとすれば、その可能性もある」


健が落ち着いた口調でそう言った。


「お前さ、さっきからやけに落ち着いてるよな」


弘明が健へ向けてそう言った。


「焦っても仕方がないだろ。冷静に考えないと前には進まない」


「昨日の夜、部屋に1人で寝てたのはお前とトシの1人だけだったよな」


弘明が声のボリュームを上げてそう言った。


あたしはハッとして健を見る。


「部屋割りを決めたのもお前だった」


「なにが言いたい?」


健の声が微かに震えた。
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