ぬくもり
「そうかも知れません。

でも、井上は段々家に寄りつかなくなりました。

無理もないですよね。
こんな家じゃ。」



泣かないように、無理に笑顔をつくろうとする私に岡崎さんが言った。



「泣きたい時に無理に笑わなくてもいいんですよ。
優ちゃんは泣き疲れて眠ってしまったようですしね。」



岡崎さんの優しい眼差しが、私を安心させてくれる。



優しい言葉に誘われるように、私の涙がまた頬を伝いだす。



「優を産む前の日、井上と喧嘩になったんです。」


岡崎さんは黙って頷いた。



「井上とは、話もしない日が続いていて、優が産まれる日の事を言い出せずにいたんです。

井上に仕事だから付き添うのは無理だってはっきり言われて。

不安でいっぱいだった私は、親に虐待されていた事を思い出してしまったんです。」




岡崎さんは何も言わず黙って聞いてくれている。

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