ぬくもり

ハッー…


俺がため息を漏らした時、デスクの上に放り投げてあった携帯が着信を告げていた。
幸代の名前が表示される。



そういえば連絡いれてなかったなぁ…



今はとても幸代と話す気分ではなかったけどしょうがない。

俺は、のろのろとした動きで通話のボタンを押す。



｢はい、｣


｢司、今大丈夫？｣


まずは相手の状況を気にかけるところが幸代のいいところだ。


まぁ、この場合は常識のある人間なら当たり前の事だが…。



｢あぁ、こないだ悪かったな｣


｢あぁ、全然。
それより大丈夫だった？｣


｢次に会った時にでも、ゆっくり話すよ。

そっちも話しあったんだろ？｣


さすがに会社で気軽に話せる事ではない。


｢あぁ、うん。
司は…当分無理だよね。｣


｢急ぎの話し？｣


｢できれば…早い方がいいかなぁ…｣



幸代が、こんな事を言い出すのは珍しい事だった。


いつもは俺の都合を第一に考えてくれる彼女が、こんな事を言いだすなんてよっぽどの事なんだろう。



｢今日は空いてる？｣


｢うん。
あたしは大丈夫だけど…司はいいの？｣



｢食事まで行くような時間は取れないけど、話なら聞けるから。

駅前の喫茶店でいいかな？｣



｢うん。
ありがとう。じゃ…｣



また美沙に見つかったら…なんて思いがほんの少し頭をかすめた。


いやいや、証拠は既につかんだんだしそれはないよなぁ。



俺はその考えを打ち消して仕事に集中しようとしたが、頭の中の『離婚』の２文字を消す事ができず、全然仕事に身がはいらない日だった。