ぬくもり
俺が風呂からあがると、美沙と優はもう眠ったようだった。

俺は感傷に任せて優の寝顔を見ようと、部屋のドアに手をかけた時、夜更けの静かな部屋に電話の音が鳴り響く。



こんな時間にいったい誰だよ…



少々ムッとしながら電話を取ると、全く付き合いのなかった美沙の義妹からの電話だった。



俺が美沙を起こしに行くと、優と寝ていた筈の美沙は電話の音で目が覚めたらしく、眠そうな顔で目を擦っていた。



電話口にでた美沙は、少し引きつった顔で『必要ない』『会ってもしょうがない』なんて言葉を繰り返している。



30分もしゃべっていただろうか、美沙がようやく受話器を置いた。



「どうした?」



「母親が、もう長くないらしいの。

母親が話があるから1度来てほしいって妹が…」



美沙が放心したように呟く。


「お義母さん、どこが悪いんだ?」


「知らない。
関係ないし聞かなかった。」



関係ないと言いながらも、美沙の顔はどんどん青ざめていく。


「関係ないって…行かないのか?」



「行かないよ。

あの人がどうなろうと私にはどうでもいいから…」



そう口では言いながらも、美沙の顔には悲しみの影が差している。


美沙は力なく部屋へと戻って行った。



俺はそのまま寝酒のビールを飲みながら考え込む。



美沙は、本当に行かない気なんだろうか?


親が死んでも、何とも思わないくらい親を憎んでるんだろうか?



普通の家庭で育った俺には、虐待されていた美沙の気持ちはわかりようもなかった。


けど、最後に会っておかないと、必ず後悔する時がくるんじゃないだろうか。


そんな風に思ってしまうのは、家庭に何の悩みも不自由もなく育った俺の、甘い感傷なんだろうか…



俺は一晩中悩みに悩んで、美沙をお義母さんのところへ連れて行こうと決めた。

< 155 / 202 >

この作品をシェア

pagetop