夢で会いたい
トモ君はあれでいて甲斐性もあると思っている。
芽実ちゃんはいつも「貧乏人!」と言っているが、派手な生活をしていないだけでなかなかに収入はあるらしい。
そういう意味も込めて「トモ君はモテるよ」と忠告したのだけれど、芽実ちゃんはまったく信用していない。
兼業農家なんて言ってるけど、豪農でもあるまいし稲作での収入なんかたかが知れている。
先祖からの土地を守って、お小遣い稼ぎしている程度だろう。
ということは、作家としてそこそこ売れているということなのに、本屋で働いている芽実ちゃんはそう思っていないようなのだ。
しかも真柴さんの家はその昔、ここ一帯の地主だったから資産家だ(トモ君が仕事部屋に借りているアパートも真柴さんの所有)。
恐らく今後生活に困ることはないと思う。
でもトモ君は自分一人の稼ぎで生活しているし、実家の資産のことなんて芽実ちゃんが知る必要はない。
田舎で暮らしたことのない芽実ちゃんには、今後も戸惑うことばかりだろう。
面倒な慣習や人付き合いをわずらわしいと感じるはずだ。
だけど、そのわずらわしい人間がいざという時には力になってくれる。
面倒臭さと親切の根幹は同じところにあるのだ。
それでも、ひとつ、これだけはかわいい孫に言っておきたい。
「芽実ちゃん、婚家でもしうまくできないことがあっても、自分を責めるんじゃないよ」
真柴さんはいい人だし、芽実ちゃんをいじめるようなことはないはずだ。
だけど争いや摩擦は、善と善がぶつかるから厄介なんだ。
「・・・うん、わかった」