夢で会いたい


この人がどんな車で来たのか知らない。
だから黙って後をついていく。

シルバーの軽自動車を通り過ぎ、白いファミリーカーを通り過ぎ、この黒のハイブリッドカーだったらいいな、と思って・・・んん?まさか?

「狭いけど、どうぞ」

まさかまさかの白い軽トラ!!

かりそめにも女子を乗せるのに?軽トラ?

「・・・お、お邪魔します」

狭い助手席によいしょっと乗り込む。
マニュアル車って、教習所以来初めて見た。


「ご飯食べて行くなら今のうちだけど行く?帰っちゃうと店ないから」

この〈ムード〉は泥と一緒に洗い流したであろう人は、やはりムードも何もなく食事に誘ってきた。

「祖母が用意してますので」

「そっか」

「あと自転車を置いているので駅までで」

「わかった」


帰宅時間だから昼間よりは混んでいる道を、鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌に運転している。

いつもニコニコしてるし、こっちの不愛想も意に介さないし、根っから明るい人なのかな。
でも書いた本はすごく暗そうだった。

やっぱりこの人、全然読めない。


「作家さんなんだよね?」

「うん。まあ一応」

「東京に住んだりしないの?」

ちょっと困ったように髪の毛をがしがし触るから、柔らかそうな癖毛が少しからんでしまった。

「特に必要を感じてないかなー。こっちには田んぼもあるし、実家もあるし。必要な時だけ東京に行けば問題ないし」

「田んぼ?」

「兼業農家なの。稲作は比較的手もかからないし冬は休みだからなんとかやってる」

農家と作家って。

「宮沢賢治?」

「玄米4合も食べないよ」

どっちの職業も私からは遠いなー。
真幸と出会った時も世界が違う人だなって思ったけど、こっちはこっちで別次元。

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