夢で会いたい



お気に入りのカフェで休もうとして、「あれ?」と首をかしげる。

店が狭い。

すごーく狭い階段を上って店の入り口にたどり着く。
そこでさらに狭い階段を上った先の席を案内される。

その間も降りてくる人とすれ違うために、壁に何度もへばりついた。
買ったばかりのショップバッグがぶつかってしまう。
席に着くだけでこんなに疲れたっけ?


さすがにイスが小さいなんてことはなかった。
だけど、フロアは満席で人いきれで息苦しい。

充満している体温とコーヒーやパンの香りと喧噪。


春限定のさくらラテとスコーンを注文。
ソファータイプのイスに深く寄りかかって、本来なら一息つくところなのに。
なんでだろう?くつろげない。

隣や後ろの人の声が次々耳に入ってきて落ち着かない。

あ、早口なんだ。
話す早さも返事を返す間もどことなく早い。

美弥子さんたちは方言の特徴なのか、とてもゆっくり話すのだ。
そのペースに慣れていたから頭の切り替えができていなかった。

そういえば、私もマシンガントークでランチとったりしてたなあ。


菜穂子さんのお漬け物とほうじ茶で『中学生の車イス体験』なんてのを毎日見てたから、平和ボケしてしまったんだ。
この前もらったたくあん、おいしかったなあ。
売ってるやつだとあんなにやわらかくないんだよね。


『芽実ちゃん』

田舎に思いを馳せていたから、脳内でヤツの声が再生されてしまった。

あいつも仕事でたまに東京に来ているはずだ。
でもきっとあのペースのままなんだろうな。

スタイリッシュな街中をくたっとしたシャツにデニムでたらたら歩くトモ君を想像したら笑えてきた。
人の流れに逆らえず海まで流されていそうだ。

一人でニヤニヤ笑いを抑えていると、さくらラテとスコーンが運ばれてきた。
コロンと丸い真っ白なカップにふわふわピンクの泡がこんもりと乗っていて、とってもかわいい。
一口飲んだ味は、甘いだけで桜なのか何なのかわからなかった。



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