強引上司にさらわれました

美優は、朝倉課長と仕事をしたことがないから、そんなことを言えるのだ。

独創的なアイディアが出なければ何時間だって粘るし、仕事の期日は絶対に守らせる。
厳しい姿勢に、これまで何人の部下が根を上げて異動していったか。

だからきっと、妹のためならば手荒なことも厭(いと)わなかったのだ。

そう断罪する裏側で、課長の違った一面もチラチラ顔を覗かせる。
会社説明会で竹とんぼを作ったときの課長のキラキラした目。
企画書を提出したときに見せられた、優しい笑顔。
部下が休んでいる間に学生たちの感想をまとめてしまったこと。

私の意思に反してそういったことが次から次へと思い返されたものだから、それらをひとまとめにして心の彼方へ追いやる。
気のせいだったと思い込む。

そうすることで、心の均衡を保つしかなかった。


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