強引上司にさらわれました
あっという間の出来事だった。
「話がしたいんだ」
「……私はありません」
会釈をしてドアを開けようと伸ばした手は、課長につかまれた。
ふと見上げた課長の顔に悲しい影が走る。
そんな表情を見て、私の胸にはきゅっと絞られたような痛みが沸いた。
課長の部屋を出てから、こういうことにならないよう細心の注意を払って避けていたのに。
「少しでいいんだ。頼む」
ギュッと強くつかまれた手首は、とても振りほどけそうになかった。
私が逃げるのを諦めたとわかったのか、課長は静かに深く息を吐いた。
「本当に悪かった……」
「悪かったって……。そんな言葉で済むような問題ですか。妹の幸せのためだったら、ほかの誰を傷つけてもいいなんて」
「それは違う」
どこがどう違うというのか。
課長は静かに首を横に振った。
「私から達也を奪うように舞香ちゃんをそそのかしたんですよね」