強引上司にさらわれました

メガネのブリッジをずり上げて、鋭い目つきで私を見つめる。


「……ちょっとそこまで、ですかね……」


人差し指をマンションの外へと向けた。


「ちょっとそこまでって、子供のおつかいじゃないんだから」

「あは……そうですね……」


管理人さん、手強すぎる。
かといって課長とのことは説明したくないし。


「まさか別れたんじゃないだろうね?」

「えっ……」


思わず絶句してしまう。
付き合っていたわけではないのだから、正確には別れていない。

ただ、管理人さんには恋人同士ということにしていたのだから、その表現も決して間違いとは言えないだろう。
言い換えてみれば、“物別れ”というところだろうか。


「やだねぇ、図星なのかい?」

「ち、ち、違いますよ。あの、本当にその……」


こんなにしどろもどろでは、肯定しているも同じだ。

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