強引上司にさらわれました

私が酔っぱらって課長に運ばれた夜のことを思い出した。
『悪かった、ごめん』と、優しく髪を撫でてくれたときのことだ。
あのときは課長もつらかったのかと思うと、心が締めつけられるような息苦しさを感じる。

その上、やっと想いが通じ合ったのに、もう離れ離れになるなんて……。

それごと抱きしめてしまうように、課長の胸に飛び込んで両腕を背中に回した。
ここが空港で、周りにはたくさんの人がいることも、今はどうでもよかった。
それに応えるように、課長が私を優しく抱き留める。


「俺も、こうしてるだけでドキドキする。元木達也とは違う」

「……え?」

「アイツにはしないって言われたんだろ? 俺は心臓が限界になるほどだ」


そういえば、課長にそんな愚痴をこぼしたこともあったっけ。
あのことを覚えていたんだ。
いつも冷静な課長が、限界を迎えるほどにドキドキしてくれるなんて……。

体が震えるほど喜びが込み上げる。


「……課長、私も連れて行ってください」


なにもかも放り出して、課長についていきたい。
課長と離れたくない。
抱きしめる腕の力を強める。

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