強引上司にさらわれました
……ちょっと待って。
ということはまさか……。
「美優たち、結婚の話でも出てるの?」
そうじゃなかったら、私にそんなことを振るはずがない。
「実は……」
もったいぶった言い方をする。
美優は、抑えても微笑みが込み上げるようで、すっかり緩んでしまった表情筋はどうにも元に戻せないみたいだった。
「まだ研修医なんだけど、かずくんのご両親が家庭をしっかりと持ったほうが医者としても成長するだろうからって。将来的に病院を継ぐわけだし、早いところ身を固めさせたいって」
「ちょっと待って! かずくんって、どこかの病院の息子だったの!?」
「うん、そうだよ。あれ? 話したことなかったっけ?」
ないないない。
思い切り首を横に振った。
「循環器系を専門とする病院の息子。かずくんのお父さんは、たまにテレビなんかでも“神の手”なんて紹介されることもあるよ」
美優は、それがなんでもないことのないようにサラッと言った。