不器用な二人はあまのじゃくの関係

深呼吸して杏奈の家のチャイムを押す。

『はーい、遥太くんかしら♪』

家の中から声が聞こえる。
杏奈のお母さんの春美(はるみ)さんだ。
会うたび会うたびテンションが高くなっていていつまでも衰えなさそうな楽しい人だ。



ガチャ



「あら、遥太くん、いらっしゃい♪」

「おはようございます!」

「今日も杏奈のことよろしくねぇ♪」

「あ、はい!」

「ふふふ。今日も遥太くんはかっこいいわね〜」

優しく笑う春美さんは杏奈の笑った顔にそっくりだ。


ドタドタドタドタッ



「お母さーんっ!!!」

荒々しい足音のあとに杏奈の姿が現れる。

「なぁに?」

「なぁに?じゃないよ!勝手に出ないでって昨日言ったじゃん!!」

杏奈は怖い顔で春美さんに詰め寄る。
それでも春美さんは変わらない様子で

「え〜、だってわからなかったんだもの。うちはモニター付いてないでしょ?郵便屋さんかと思ったのよ〜。そんなこと言うなら杏奈のお小遣いでモニター買っちゃおうかしら?」

さっきおもいっきり『遥太くんかしら』って言ってたけどな……
春美さんは杏奈と違って嘘がうまいな。
相変わらず仲のいい杏奈の家族を微笑ましく思っていると杏奈の姿が目に入る。

「…っ!」

おい、待てよ。
その格好はやべぇよ。


ふんわりとした花柄のスカートに白のニット。まだ肌寒い季節だから薄手のコートを羽織っている。

化粧もしてるし……いつからそんな女っぽくなったんだよ。

かわいすぎんだろ…


「なに?そんな…ガン見しないでよ!」

「は、はぁ!?」

いつもと違う杏奈の姿に見とれてしまっていた。
Tシャツとショートパンツなどといった服装で俺の部屋に来るからこんな格好は初めて見た。

ホント、やばいって…

「あら〜?杏奈ったら気合い入ってるわねぇ」

「なっ!そんなことないから!!!
普通だから!
じゃあ行ってくるからね!」

「ふふふ。行ってらっしゃーい」


春美さんに見送られて杏奈と俺はふたりで歩きだす。

「…」

「…」


ふたりとも無言。

やっぱ、服のこと褒めた方がいいのかな…
春美さん、『気合い入ってる』って言ってたし、少しは頑張ってくれたんだよな?

……これって、うぬぼれてもいいのか…?

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