真愛
「とにかく止血だ。救急車なんか待ってる暇ねぇ。止血して車で運ぶ」
そういう楽に頷き、黒塗りのセダンを睨む。
「………え?」
あの、人…は……。
楽に気付かれないようにセダンの方へ向かう。
死角になっている細い路地に見覚えのある姿が入っていった。
その姿を追って私も路地へ入る。
信じられなかった。
だってそこにいるのは…。
「りょ、う…が…さん……」
私の声に反応し、ゆっくりとこちらへ振り向く。
恐ろしく整ったその顔は、紛れなく紅瀬組の若頭である綾牙さんだった。
「な、んで…」
そう尋ねるといつかのバルコニーで話した時のような笑顔を貼り付けた顔を私に向ける。
恐ろしく不気味で、何を考えてるのか見えない。
「いったよね?後悔することになる、俺は目的のためなら手段を選ばない、って」
確かにバルコニーで話した時、そう告げられた。
まさか尊の不在時に乗り込み、現れた所を撃つ、そんなことをするなんて思ってもみなかった。
「…てい」
「ん?なぁにー?」
「最っ低…!!仮にも尊とは旧知の仲なんでしょう…!?親友とも呼べる人に銃を向けて…!!あんたには心がないの…!!??」
「心、ねぇ…」
空を仰ぎ、ため息を吐く綾牙さん。
そして色のない瞳で私を捉える。
「俺もこんな事は望んでなかった。君が大人しく紅瀬に渡っていればこんなことにはならなかったんだよ?自分のせいだ、って自覚ある?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
嫌な汗が背中を伝う。
「君が何もいわずに紅瀬に戻れば尊や他の組員も傷つかずに済んだ。この事態は…奈々ちゃん、君が招いた事だ」
「そ、んな…」
「さて、最後にチャンスをあげよう。紅瀬に戻って来い。期限は明日の午後5時。初めて出会ったあの公園で待ってるよ」
そういって路地の奥へと進んで行く綾牙さん。