オオカミ専務との秘めごと
そのとき、みんなと話が合わなくて、話しかけられず、私も話しかけることができず、一人浮いていたという苦い思い出がある。
それを知っている佐奈は、合コンに誘うときはちょっと遠慮がちになる。
「私、菜緒が心配なの。このまま引っ込み思案でいたら、ずっと恋人ができないよ?」
佐奈は、殻を破ろうよ!と真剣な顔で見つめてくる。
私のことを思って言ってくれてるのがビシビシ伝わってきた。
折しも明日は会社もバイトも休日、たまには参加してみるのもいいかもしれない。
「・・・何時からなの?」
「七時から。菜緒、来てくれるの?」
頷いて見せると佐奈は満面の笑顔になり、これで落ち着いて食べられると言ってうどんをすすり始めた。
そして午後の仕事をこなしているとあっという間に定時になり、佐奈たちが合コンに向けてメイク直しに行くのを横目に、あとで合流するね!と声をかけて会社を出た。
新聞配達のお給料をもらうと、すぐにやるべきことがある。
ATMに行き、お給料を引き出して五歳離れた弟の口座に移すのだ。
弟の雄太は私立の大学に通っていて現在一人暮らし。
バイトをして学費は奨学金を借りているけれど、それだけじゃ全額払えないし生活費がない。
大学生の独り暮らしは、お金がたくさんいるのだから。
ATMの操作を終え、バイト中かな?と思いつつ雄太にlineを入れる。