オオカミ専務との秘めごと
『今月分振り込みしたよ。足りなかったらすぐに言ってね』
すると、意外にもすぐに返事が返ってきた。
『ありがとう。姉ちゃんも無理すんなよ。あと、一日早いけど誕生日おめでとう』
雄太のメッセージを見て「あ!」と気付く。
そうだ、明日は私の誕生日だったっけ。
明日は奮発してケーキを買おうと決め、『ありがと!』とlineに入れてスマホを閉じた。
私と雄太はたった二人きりの家族。
両親は、私が十五歳のときに交通事故で亡くしてしまった。
あのとき雄太はまだ小学生で、両親の遺体を前にして必死に泣くのを我慢していた。
その姿がとても愛しくて切なくて、私が雄太を守っていくって両親に誓ったんだ。
親せきの家にお世話になったけど、なるべくお金の迷惑をかけたくないというか、必要なお金が欲しいと言い出しにくくて、そのころから現在までずっと新聞配達をしている。
正直、本業との二重勤務は大変だけれど、弟には出来るだけのことはしてあげたい。
だからお洒落をしたり素敵な人との恋愛に憧れるけれど、雄太が大学を卒業するまではそれどころじゃないというのが、本当のところ。
でも、今夜はちょっとだけ羽目を外してみようかな。
合コンは苦手だけど、朝の残念な経験を打ち消すような楽しい時間を過ごせたらいいな。