オオカミ専務との秘めごと
チューハイを一気に飲み干して新たにビールを頼み、お皿を自分の方へと引き寄せる。
瓶ビールを手酌でグラスに注ぎ、野菜の炊き合わせをつまんでは飲み、蒸し鳥の餡かけを口に運んではグラスを傾ける。
料理もお酒も美味しくて、これだけでも来た甲斐があるというもの。
お腹いっぱいになったら、佐奈に断って帰ろう。
「んー、美味しいっ。幸せー」
「うん。神崎さん、いい食いっぷりだ」
「へ?」
突然話しかけられて変な声が出る。
隣を見ると、紺地に赤の水玉ネクタイをしたメガネの人が座っていた。
この人は確か、文具メーカー勤務の松野下さんだ。
にこにこ笑っているから、急に恥ずかしくなってきた。
あなたはいつから見てたんですか。
というか、いつの間に隣に来たんですか。
ついさっきまで私の隣には、飲料水メーカー勤務の梅沢さんがいたはずで、この人はずっと佐奈と話をしていたのに?
佐奈を見ると梅沢さんと楽しそうに話していて、松野下さんのことは気にしていない様子。
「俺、美味しそうに食べる子が好きなんですよ」
「は?」
男性に言われ慣れていない言葉だけが大きく聞こえ、頭の中でコダマのように大きく鳴り響く。
“好き”と。
どんどん顔が赤くなっていくのを自覚する。
でもでもこれは、無意味な言葉の羅列で過剰に反応してはいけないもの。
赤くなったのを誤魔化すようにビールを飲みほして、グラスを置いた。