オオカミ専務との秘めごと
「お、神崎さん、飲めますねー。よし、もっと飲みましょう。すみませーん、ビールください」
ちょうど通りがかった店員にさらっと注文し、松野下さんは自分の飲んでいたグラスを自分のそばに引き寄せた。
勝手にオーダーされて運ばれてきた瓶ビールを見て、ちょっと躊躇する。
これ以上飲むと酔っぱらうかもしれない。
「あの、私はもう、いりませんから」
「え、そうですか?じゃあこれは俺が飲みます。でも神崎さん、少しは付き合ってくれますよね?」
にっこり笑ってビール瓶を傾けてくるから負けてしまう。
「じゃあ、少しだけ・・・」
ソフトな口調で話す松野下さんは、無理やり感がないからちょっとズルい。
お互いに酌をしあい、二人の出会いを記念して小さく乾杯した。
「これ、おつまみにどうぞ。美味しいですよ」
絶品の蒸し鶏の餡かけをすすめると、松野下さんは首を横に振った。
残念なことに鶏肉は食べられないと言う。
「俺、好き嫌いが多いんですよ。だから神崎さんみたいな子が好きなんです。憧れ、みたいなものかな」
松野下さんはテーブルに肘をついて体をこちらに向け、じーっと見つめてくる。
彼の体で他のみんなが見えづらく、テーブルの隅に座っている私は、彼に閉じ込められているような感覚に陥る。
彼から発せられている熱っぽい気が気恥ずかしくて、身の置き所に困ってしまう。
話題を探して一生懸命話しかけ続けた。