オオカミ専務との秘めごと
長谷部さんが呼んでくれた店員さんにビールを頼み、ツマミも適当に選ぶ。
居酒屋に入ってまだ少ししか時間が経っていないけれど、長谷部さんに対する認識が変わってきた。
苦手だと思っていた彼は、会社にいるときみたいなチャラくて色気ムンムンなイメージと違って、意外に話しやすくて楽しい人だ。
それによく気がつく。
だからみんなにモテるのかもしれない。
「それで、私に頼みって何ですか?」
三十分くらい経っても本題を出さないので水を向けると、彼はポケットから紙を出してテーブルに置いた。
フランス語の文章が書かれてあり、読んで訳してみてというので、その通りにしてみせる。
「やっぱりキミすごいなあ。どうして二課に配属されなかったのか不思議だよ。キミみたいな子が欲しいのに」
「それは多分、『ハイルング』が好きだから関わる仕事をしたいって、強く希望したからかな」
新入社員の中で、二課に配属されたら残業三昧になるという噂があった。
語学に長けた人が配属されるらしいと。
そうなると私は大いに困るから、入社のオリエンテーションで必死にアピールしたのだ。
ハイルングの名前を連呼して・・・お陰で、免れて一課に。
「その気持ち、今も変わらない?」
「はい、あまり変わらないですね」
「そうかあ。実はさ、二課では本気でフランス語できる子がほしくて、何度も希望出してるんだよね。神崎さん、キミがほしいって」