オオカミ専務との秘めごと
『イザカヤ、ササメユキ。八時』
長谷部さんの書いたメモは簡素過ぎて場所がよく分からず、本人に訊こうにも部内で話しかけるのは憚れた。
なので結局ネット検索をして自力で探してきたけれど、ここで合ってるんだろうか。
店名は合っているが、ひらがなだ。
かまくらの中に毛糸の帽子をかぶった子供たちが入っている絵が入り口近くを飾っていて、童謡の『雪やこんこ、あられやこんこ』を思い出してしまった。
中は、どんな内装なんだろうか。
「いらっしゃいませ!何名さまですか?」
マニュアル通りの出迎えをしてくれた店員さんは、カスリの甚平みたいな制服を着ている。
今回は待ち合わせだと伝えるとすんなり案内してくれた。
座敷のテーブルに座っていた長谷部さんは、枝豆をつまみにして、既にビールを飲んでいる。
「すみません、待ちましたか?」
「おう、少しだけな」
「変わった雰囲気のところですね?店の真ん中に囲炉裏があるなんて、昔話に出てくる家みたい」
「面白いだろ、先週見つけたんだ。あそこで本当に魚を焼いてるんだぜ」
囲炉裏では串刺しにされた魚が幾つか並べられていて、店員さんが焼け具合を見ている。
餅とか芋も焼いたら美味しいだろうな。
「でも、夏は暑そう」
「そう思うだろ?だから訊いたんだ。そしたら、夏はデモにして雰囲気だけにするって言った」
「そうですよね。でないと、冷房が効かなくなっちゃう」
「だな。キミ、何を飲む?飲めるんだろ?」
「はい、そこそこ飲めます」