オオカミ専務との秘めごと


「あれは、違う」


そうきっぱり言った長谷部さんの表情は、眉間にシワが寄っていて少し怒っている感じがする。


「あれは、あの子がキスしてくれたら諦めると言うからしただけ。感情も何もない。あんなのキスとは言わねえよ」


唇を合わせただけで握手と変わらんから、と苛立ったように言ってビールをぐいっと飲み干した。


「俺から誘うのは、三倉だけだよ」

「え、そうなんですか?でもそれ、佐奈は知りませんよ。いつも取っ替え引っ替え誘ってるって言ってますから」

「それ、マジ!?」


頷いてみせると、あーっと声を出し、額に手を当てて天井を仰いだ。

もしかして、チャラい自覚はなかったのかな。

すごくショックを受けてるみたいだ。


「伝わってないことは、分かっていたんだ・・・そうか、だからあんなに頑ななのか・・・」


長谷部さんが女性に声をかけるのは、ちょっとした気遣いの気持ちからで、そこにはなんの感情も入っていないと言う。

それが、彼みたいな素敵な男性だと“毒”になってしまうんだけど。

それに彼の場合、ただの女好きに見えてしまうのがお気の毒だ。


「日頃の行動を改めて、一途なところを見せるしかないと思います。でもそれで、佐奈が振り向くかどうか分かりませんけど、見直してくれるかも」

「そうだな、頑張ってみるよ」


まさか恋愛経験ゼロの私が、モテ男にアドバイスする日がくるなんて、なんだか可笑しくて噴き出してしまった。

彼が変わったら、私も佐奈に後押ししてみようか。

そう思えた夜だった。


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