オオカミ専務との秘めごと

人で賑わうお昼どきの社員食堂で、窓際の席からぼんやりと空を眺める。

今日も空は青くて、飛行機雲が綺麗な線を描きながら飛んでいく。

彼は今頃、まだ夢の中だろうな。

こちらがお昼ならドイツは朝の四時ごろだから。

一週間は長いようで短い。

順調に物事が進んでいれば、もうすぐ彼が帰国してくる。

私はどんな顔で彼を出迎えたらいいんだろう。

『伝えたいこと』を聞きたいような、聞くのが怖いような、心の中は複雑な模様を描いている。


「菜緒、どうしたの?ぼんやりして」

「神崎さん、ちっとも食べてないですけど、具合悪いんですか?」

「ごめん、何でもない。ただ、春だからぼーっとしちゃって」


そう言って笑顔を見せると、心配そうにしていた彼女たちも「今日はあったかいもんねー」と受けあってくれた。


「さあ食べる、食べる。すごくお腹空いてるから。いただきます!」


私たちは、お馴染みのメンバーでテーブルを囲んでいる。

今日の佐奈のランチは焼き魚定食で、塩田さんはコンビニのサンドウィッチ、私はいつもの節約弁当だ。

塩田さんは野菜ジュースの紙パックにストローを挿しながら、ぽつりと「私、最近気になる人ができたんです」と漏らした。


「えっ塩ちゃん。それ、どこの人?」


突然の告白に佐奈がいち早く反応すると、彼女は、会社の人ですと言って頬を染めた。


「開発の人で、普段全然目立たないような、おとなしい人なんです」


エントランスで彼が落としたIDカードを拾ったことで知り合いになり、仲良くなって、今夜お食事に誘われたそう。


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