オオカミ専務との秘めごと


詮索好きなおばちゃんよろしく想像を膨らませながらバイクを走らせていると、いきなりドアがバッと開いて車の中から人が出てきた。

女の人だ!と認識した瞬間、その人はわき目もふらずにいきなり走り出し、バイクの前に飛び出てきた。


「あああ、あぶなっい!!」


慌ててブレーキをかけつつハンドルを切って避けると転びそうになり、「やだやだやだ」と声を出しつつ地面に足をつけて一生懸命体勢を立て直す。

バイクを壊したくないし、けがもしたくないから、もう必死だ。

なんとか体勢を立て直すことができ、ふぅっと安堵の息を漏らす。

スピード出してなくて良かった。

思わぬ出来事で体が震えている。

心臓が止まりそうになった・・・いきなり飛び出すなんて危ないと、注意しなければ。

心底ホッとしつつドキドキしている心臓をなだめていると、男女の話し声に気が付いた。


「だから、待てって、言ってるだろう!」


苛立ったような男性の声がするからそっちを見ると、さっきぶつかりそうになった女性の腕を、男性が掴んでいた。

眉間にしわを寄せていて、だいぶ怒ってる感じだ。


「あなたの顔も見たくないし、話もしたくない!離して!」


女性がきつい口調で言い放ち、男性をキッとにらみつけて手を振りほどいた。

その予想外すぎる展開に驚き、声に出さずに心の中で「え?え!?」と叫ぶ。

えっと、この二人はさっき車の中でキスをしていたのでは??

それが、喧嘩している??


「最低!もう連絡してこないで!」


そう言って女性は男性の顔をパシッと叩き、カツカツとヒールを鳴らしてマンションの中へ消えていった。

それを唖然として眺めていると、「おい」と声が掛けられてビクッと体が跳ねる。


< 4 / 189 >

この作品をシェア

pagetop