オオカミ専務との秘めごと

「あっ、菜緒。そろそろ戻ろうか。お昼休みが終わっちゃう」


佐奈に促され、お弁当箱を袋に仕舞って社員食堂を出た。

先にエレベーター前で待っている人たちの後ろにつき、回数表示のランプを眺める。

社員食堂は四階で、私たち営業部のフロアは三階。

上から下りてくるランプが四階で止まると、前にいる人たちからちょっとしたどよめきが起こった。

どうやらVIPな人が乗っているらしい。

道を開けるように左右に分かれる人の間から、まとめ髪のきりっとした女子社員が見えた。

皺のない紺色のスーツを着てファイルを小脇に抱え、エレベーターガールのように扉を押さえている。

ピシッとした姿勢と美しい立ち居振る舞いは、女子社員の憧れの部署、秘書課の子だ。

エレベーターの中からは、ドイツ語っぽいイントネーションが聞こえてくる。

外国からのお客様のよう。

そして、しゃべりながら金髪の男性と一緒に下りてきた人を見て、心臓が胸から飛び出るくらいにドクンと跳ね、冷汗が一気に吹き出した。

ぷるぷる震えつつも佐奈と壁の間に入り込み、ひたすら下を向いて通りすぎるまでをやり過ごす。

専務、だ・・・。

< 42 / 189 >

この作品をシェア

pagetop