オオカミ専務との秘めごと
まさか社内で姿を見ることになるとは!
今まで一度も会うことがなかったのに!
数秒のことがやけに長く感じて、心臓が躍るようにドクドクと鳴る。
次第に話し声が遠ざかっていき、緊張から解き放たれて肩の力を抜いていると、佐奈がため息交じりに言った。
「菜緒、大神専務は素敵だよね。今の何語かな?響きがヨーロッパっぽかったけど。仕事のできる男って感じ。とても手が届かないけど、憧れるね」
「そ、そうだね!憧れるね!ね、佐奈、早く戻ろう。エレベータ開けて待ってくれてるよ!」
専務の方を見ている佐奈の背中をぐいぐい押してエレベーターに乗る。
まさかのニアミス。
けれど、一瞬のことで目が合うこともなかったし、バレていないはず。
でもこういうこともあるんだから、社内では十分気をつけていないと。
いきなり降ってわいた危機で、スリルある毎日の訪れを実感して、ため息が出た。