オオカミ専務との秘めごと


白衣にマスク姿の店員がカラカラと台車を引いてくれば、そのまわりに人が集まる。

台車には「作業中、話しかけないでください」の注意書がデカデカと貼られている。

そのため、みんなは行われる作業を虎視眈々と見守り、シールが貼られたパックにはあちこちから手が延びて買い物かごの中へ吸い込まれていく。

まごまごしていると逃してしまうので、このときばかりはグラムなどを見ず我先に手を伸ばすのだ。

でもこの日は多くの戦いに負けてしまい、半額シール付きのものは豚肉しかゲットできず、鶏肉とひき肉は普通の特売値段のものになった。

目的だった肉をかごに入れたあとはゆっくりと店内をまわり、広告の品の表示のある食品をいくつかと調味料をプラスしてレジに並んだ。


レジ待ちをしているビジネスマンを見て、ふと大神さんのことを思う。

彼も独り暮らしだ。

こんなふうにスーパーで買い物したりするんだろうか。

コンビニで買い物することだけは知っているけれど・・・。


スーパーのレジに並ぶ姿を想像してみて、その不似合さに笑いが漏れる。

大神さんみたいな人は、多分料理はしないんだろう。

食事は全部外食なのかもしれない。

セレブ男の独り暮らしなんて、きっと、私の想像の範疇など、はるかかなたに超えるのだ。

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