オオカミ専務との秘めごと

──相手は専務。

よほどのことがない限り、営業部に来ることはないだろうと思える。

危険地帯はエレベーターとエントランス、あとは、社員食堂。

私の名前を知らないことは、ものすごくラッキーだった。

ふいに姿を見られても一発で分からないようにするためには、見た目の印象をかえることが一番だろうか。

髪形を変えたり染めたりするのが効果抜群かもしれないけど、維持しなければならないから躊躇する。

今の髪型はコストがかからないのが魅力なのに。

なにかもっと低コストで簡単に持続できる方法はないものか。


新聞配達を終えて事務所に戻り、丁度中にいた店長に聞いてみる。


「店長、見た目の印象を変えるには、どうしたらいいと思いますか?」

「え、菜緒ちゃん、急にどうしたの。まさか好きな人でもできたの!?やっと、ようやく、春が来るの!?」


店長はつぶらな瞳をいっぱいに開けて、「どんな人なの?」と言って、にこーっと笑う。

「春が来た」の台詞は少し前に佐奈からも言われたなと思い出しながら、首を横に振って否定する。


「いえ、そういうわけではなく。一目で私だって分からない何か・・・そう、アイテムみたいな、そんなのないですか?」

「それじゃ菜緒ちゃん、変装するってこと?悪いことは言わないけど、探偵はやめた方がいいわ。危ないから」


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