オオカミ専務との秘めごと

週末の金曜日。

営業部のデスクは空席が目立ち、半分以上が外出している。

それでも部内は活気があって、いろんな音が耳に入ってくる。

電話に応対する女子社員の声と内線の呼び出し音。

FAXの受信音に書類をめくる音。

取引先との電話を済ませた営業が「いってきます!」と言って慌ただしく出掛けていく足音。

でもいつもと少し違うのは、隣から佐奈の声が聞こえてこないこと。

私と佐奈は営業補佐だから外回りに行くことはないけれど、ごくたまに、お使いで出掛けることがある。

佐奈が今いないのは、楢崎さんに頼まれた書類を食品卸売業社まで届けに行っているから。

当の楢崎さんはとても忙しいようで、主任デスクでひたすらキーボードを叩いている。

多分、来週の会議に使う資料の作成をしているんだろう。

私も早く集計データを仕上げて渡さなくては。


パソコン画面にあるのは、前回までの数字と今回の数字との比較グラフ。

店舗ごとに間違いがないか不備がないか、前回のグラフデータと見比べてチェックする。

目を皿のようにしていると「神崎さん」と呼ばれた。


「はい?」


振り向くと長谷部さんがいて、佐奈のデスクを指先でトントンと弾いている。


「今日、病欠?朝からいないよな」

「いえ、佐奈は主任のお使いです。直行でS市の卸業者まで行ってます」

「ふぅん・・・S市なら、ここから電車で往復二時間、か」


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