オオカミ専務との秘めごと

長谷部さんは腕時計をちらっと見た後、スッと手をあげて二課に戻っていった。

表情は読めなかったけれど佐奈のことが気になるみたいで、本気で好きなのかな?と思う。

でも、二課に戻る道すがら女子社員に話しかけて、笑顔をもらって嬉しそうにしている。

やっぱり佐奈の言う通り、チャラいだけみたい・・・。


「よし、これで完璧・・・と」


集計グラフの間違いを幾つか発見して直し、USBメモリにデータを入れ込み席を立つ。

難しい顔つきでパソコン画面を見てマウスをカチカチ操作する楢崎さんは、ものすごく近寄りがたい空気を放っている。

だけど、私が近づいていくのに気づくと、パソコン画面から目を上げてマウス操作を止めた。

表情はいつもの穏やかなものに変わっていて、話しかけやすい雰囲気を作って待ってくれる。

こんなところも、好きだったな。


「楢崎主任、集計終わりました。グラフ化したデータです」

「ご苦労さま。今回は早かったな、さすが神崎さんだ。助かるよ」

「はい。がんばりましたから」


今は午前十一時。

前回は定時間際の仕上がりだったこと、楢崎さんは覚えてくれているんだ。

こんなふうに少しの進歩でも褒めてくれるのが部下としてはうれしく、アンケートの集計は大変だけどまたがんばろうと思える。


「あとこれを。気になったコメントです」

「ん、ありがとう」


渡したメモ書きに視線を落とす楢崎さんに「失礼します」と声をかけて自席に戻った。

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